アニクラのフロアで、OP のイントロが 1 秒鳴っただけで全員の腕が上がる。あれを見て「自分もあっち側に立ちたい」って思った人、けっこう多いと思うんですよ。自分も東京で 4 年くらい回してますが、あの瞬間は今でもブースから見てて気持ちいいです。
機材の選び方や「まずは客として通おう」っていう一般論は 自分も DJ したい。何から始めればいい? に書いたので、ここではアニソン・ボカロで回したい人だけが引っかかるところを話します。
アニソン DJ が「普通の DJ の始め方」とちょっと違うところ
ハウスやテクノの夜だと、フロアのほとんどは曲名を知らないまま音で踊ってますよね。アニクラは逆で、フロアが曲を知ってるのが前提。しかも曲そのものより「その作品を観てた頃の思い出」で湧く人が多い。
だからアニソン DJ って、みんなの思い出を預かって、いいタイミングで出してあげる役なんです。繋ぎのテクニックより先に「この曲をここで出すと誰が喜ぶか」が分かってるかが効く。アニメやゲームやボカロをずっと聴いてきた人は、もうスタートラインの半分くらいまで来てます。
もう 1 つ違うのが入口の多さ。呼ばれる側になる話 で「DJ 募集の張り紙なんて見たことないでしょ」って書いたんですが、アニソン・ボカロ界隈はちょっと事情が違って、オープンデッキやフリー DJ 枠をやってる DJ バーが普通にあるんですよ。これは後半で。
曲集めは「ちゃんと買う」が基本
最初にぶつかるのがこれ。サブスクで聴いてる曲は、そのままじゃ DJ ソフトに読み込めません。手元にファイルが要るので、結局は買うことになります。
アニソンなら CD か配信ストアでの購入がメイン。アニメの OP・ED シングルには off vocal (カラオケ) 版が入ってることが多くて、歌の無い部分に次の曲のイントロを重ねたりできるので、繋ぎでめちゃくちゃ使えます。サントラ (劇伴) やゲームの OST は、深い時間に効く掘り曲の宝庫。中古 CD もアリで、秋葉原の中古屋さんを回ると昔のアニソンシングルが安く見つかったりします。
ボカロは、ボカロ P 本人のアルバムが配信ストアに並んでたり、BOOTH や同人即売会で CD を出してたりします。「ボカロ DJ の曲ってどう集めるの?」で悩んでるなら、好きな P のディスコグラフィーを辿るのがいちばん早い。動画サイトで聴ける曲でも、音源として買えるかは P によって違うので、ここは地道に。
動画サイトから音声を抜くのはやめておきましょう。権利の面はもちろん、音もかなり悪い。イヤホンだと気づかなくても、クラブのスピーカーだと一発で分かります。
集めた曲は「ゼロ年代の電波ソング」「ロボアニメ」「2010 年代のボカロ」みたいに、作品・年代・BPM でプレイリストを分けておくと現場で楽ですよ。
クラブでアニソンかけていいの? 権利の話をざっくり
「DJ 著作権 アニソン」で調べてる人もいると思うので、権利団体の公式資料で確認できたところだけ書きます。
JASRAC の使用料規程では、ライブハウスやディスコ、バーみたいに、お客さんに飲食やダンスをさせる営業をしている施設を「社交場」としてまとめていて、そこでの「演奏」には生演奏だけじゃなく「レコード演奏」も入ってます。レコード演奏の定義は「適法に録音された録音物を用いて行う演奏」。DJ が買った音源をかけるのは、この話です。手続きの案内を見ると、許諾は原則として演奏する場所ごとで、契約名義人はお店の経営者。つまりクラブや DJ バーで既存曲をかけるのは、お店がそういう契約をしている前提で成り立ってる仕組みなんですね。
管理団体は JASRAC だけじゃなくて、NexTone もあります。NexTone の FAQ には、NexTone が許諾できるのは自分のところで管理している作品だけ、とあって、どの曲がどこの管理かは各団体の作品データベースで調べられます。
DJ 個人としてやることはシンプルで、正規に買った音源を使うこと。お店じゃない場所 (レンタルスペースとか) で自主企画をやるときや、ミックスをネットに上げる・配信するときは、クラブの中で鳴らすのとは別の話になるので、その都度 JASRAC や NexTone の窓口で確認してください。
アニソン DJ の繋ぎ方:BPM がバラバラな前提で考える
ハウスなら BPM 120 台の曲を長く重ねるのが基本ですが、アニソンでそれをやると詰みます。BPM 130 台から 200 近くまで平気で並ぶし、途中でテンポが変わったり、生ドラムで揺れてたりするから。なのでアニクラでは、長く重ねない繋ぎ方がよく使われます。
いちばん基本なのがカットイン。前の曲のサビ終わりや 1 番終わりで、次の曲のイントロをスパッと入れる。アニソンはイントロが強い曲が多いので、これだけでフロアが沸きます。1 番で次へ行く DJ も多くて、テレビで流れてた長さの感覚に近いんですよね。エコーやリバーブで前の曲を飛ばして、残響の中で次のイントロを出すのも定番。BPM が倍と半分 (180 と 90 とか) の関係なら、ビートを合わせて重ねられることもあります。
アニクラならではなのが「ネタ繋ぎ」。前の曲の歌詞やタイトルに出てきた言葉を次の曲で拾う、同じ声優さんで繋ぐ、同じシリーズや同じ放送クールで繋ぐ。やってることはカットインでも、ネタがハマるとフロアから「おおっ」て声が出る。これが分かってくると一気に楽しくなりますよ。
気をつけたいのはコールが入る曲。アイドル系アニメの曲なんかは、フロアがコールのタイミングを待ってるので、そこで切ったり上から被せたりすると一気に冷めます。落ちサビや大サビでみんなが歌いたい曲も同じ。曲を知ってないとできない判断なので、ここでも「好きで聴いてきた量」がそのまま効いてきます。
練習期間やシンクボタンの話は DJ ってどれくらい練習したら出れる? に書いた通りで、アニソンでも変わりません。
定番曲と掘り曲、フロアの見方
アニクラの選曲で誰もが一度は悩むのが、定番と掘りのバランス。
定番曲は、イントロでフロア全員が分かる「残酷な天使のテーゼ」級の曲。確実に盛り上がるけど、そればっかりだと「またそれか」になる。掘り曲は、キャラソンや ED、劇伴、懐かしいゲームの曲みたいに、知ってる人が「それ持ってくる!?」ってなるやつ。刺さる人には最高だけど、続けるとフロアが止まる。
自分は、知ってる人が多い曲の間に掘りを 1 曲挟むくらいの感覚でやってます。まだ温まってない時間は分かりやすい曲を多めに、深い時間になって残ってるお客さんの濃さが見えてきたら掘りを増やす。
フロアを見るときに大事なのは、どの年代の作品で反応してるか。ゼロ年代の作品で湧くフロアと、ここ数年の作品で湧くフロアは全然違う夜です。前の DJ が何をかけてどこで湧いたかを、出番の前にフロアで聴いておくのがいちばんの情報源。それと、その日にもうかかった曲をまたかける「曲被り」は、アニクラだと避けるのがマナーになってる現場が多いので、何がかかったかスマホにメモしておくと安心です。
アニクラデビューの場所:オープンデッキ・フリー DJ・飛び入り
アニソン・ボカロ界隈は、デビューの入口が他のジャンルより多いです。うちで拾ったイベント告知だけでも、こんな夜がありました。
湯島の九龍は、フリー DJ 歓迎のバー営業を何度も告知していて、ゲーム音楽や 20 世紀のアニメ、J-POP をかける DJ を歓迎すると書いてました。八王子のグリュックの金曜会には DJ 用のフリー枠があって、機材を持ってきての飛び入りも歓迎。立川の Gluck Zwei では、アニメ OP・ED 縛りの B2B に飛び入りで混ざれる回がありました。歌舞伎町のボカブキは深夜帯の DJ 募集を告知したり、飛び込み枠のあるイベントをやったりしてるし、渋谷の nagomix では「2016 年のボカロ」がテーマのイベントで公募 DJ を募集してたこともあります。
仕組みはお店ごとに違って、名前を書いて順番を待つところ、時間で区切るところ、回す人に料金がかかるところもある。置いてある機材もコントローラーだったり CDJ だったり「持ってきてね」だったりするので、告知を読むかお店の人に聞いてから行けば大丈夫。持ち物は、DJ ソフトで書き出した USB とヘッドフォンです。
オープンデッキのいいところは、知らないお客さんの前で回せること。家の練習じゃ分からない「この曲、ここだと全然ウケないんだ」が分かる。それに、DJ バーの常連さんやオーナーがそのままアニクラの主催や出演者だったりすることも多いので、通ってるうちに「今度うちのイベントで 30 分どう?」って声がかかることも普通にあります。そこから先は 呼ばれる側になる話 と同じで、客として通うことと、回したいって気持ちを伝えることが効いてきます。
アニソンをかける DJ バーは アニソンバー・アニソン DJ バーの一覧 にまとめてあるので、行きやすいお店から探してみてください。
ノルマとギャラの話も正直に
気になるのに誰も教えてくれないところですよね。
小さいアニクラだと、出演ギャラは無しで、ドリンクチケットと、自分の名前で来てくれたお客さんの分が少し戻ってくる「ゲストバック」くらいが多いです。イベントによってはゲストノルマがあって、決められた人数を呼べなかったら差額を自分で払う、みたいな条件のところもあります。
ノルマ自体が悪いわけじゃなくて、小さいイベントを続けるための仕組みでもある。ただ、条件は声をかけてもらった時点で聞いていいし、聞くべきです。納得してから受ければ、あとでモヤモヤしないので。大きいイベントのメインの人がいくらもらってるかは、正直噂レベルの話しか出回ってないので、ここでは書きません。
結局、客として通うのがいちばん近い
アニソン DJ への道も、最後は「フロアにいる人がいちばん強い」に戻ってきます。どの曲で誰が湧くのかは、客としてフロアに立ってる時間でしか覚えられないから。
アニクラそのものがまだよく分からないなら、親記事の アニクラとは からどうぞ。ボカロ寄りで回したい人は ボカクラの記事 も。今週どこで何があるかは アニソン系イベント一覧 と ボカロ系イベント一覧 で探せます。